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すると婆さんは「全く最近の若い亡者は…」などと年寄りお得意のボヤきを口にしながら、俺の服にフ○ブリーズを吹きかけ始めた。
「イイモン持ってんじゃねぇか」
「そう言えば今は服の剥ぎ取りやってなかったから着替えは無いんじゃったわ」
「よくそれで仕事できるな?」
「今からするわい。ほれこれが入滅証と案内のチラシじゃ」
婆さんから1枚のチラシとカードのようなものを手渡された。
『令和○年○月○日 23:31分 入滅』と死亡時刻が記載されており、その下にはバーコードが記されていた。もう一枚のチラシは案内図のようだ。現在位置――三途の川とその向こうにある『閻魔庁舎』への道順が掲載されていた。しかもご丁寧に道中にある針の山や血の池などといった場所も“観光スポット”として掲載されている。
というかこういう場所って刑罰の場所じゃないのか…眉を顰めたままチラシを眺めていると、婆さんが話しかけてきた。
「言ったじゃろう?アタシゃチケットブースのキャストのおねえさんだと」
「あぁ。たしかにチケットブースだったわ。けどあっちの爺さんは仕事しねぇのか?」
「あぁ。爺さんはとっくにくたばっちまっとる。あれは剥製じゃ」
「は…剥製…」
近付いてそっと覗き込む。確かに胸は上下していないし、目玉もガラス玉だった。
「ガワだけでも置けば気分が紛れるでの」
いくら旦那だとはいえ、死んだ人を剥製に…やっぱり地獄ってのは倫理感もブッ飛んでいるのか。気味が悪いと思いながらも顔に出さぬよう“旦那”の側を離れる。
「生前は働き者じゃったわ」
「いい加減眠らせてやりゃよかったのに」
「眠ったところで地獄で目が覚めるわい」
…どうもこの娑婆と違うノリに付いていけない。さっさと離れよう。
それじゃあなと声をかけ歩き出すと、後ろから婆さんに声をかけられた。
「ついでに焼肉屋のおかみさんにお礼を言っといてくれんかの」
「どこの焼肉屋だよ」
「バアさん、ちゃんと説明せんと、この若いのもわからんだろ。なんせここは地獄じゃ。焼肉などどこにでも転がっておる」
「絶対に牛でも豚でもねぇだろその焼肉!ってか焼肉言うな!」
ツッコミを入れた後で気が付いた。この声は――老爺の声だ。
「その前に焼肉と焼肉屋の区別もつかんじゃろうな!」
「それもそうじゃ!Hahaha!ナイス地獄ジョークじゃ!!」
さっき見た時は確かに剥製だったが――
俺はそれ以上考えるのを止め、その場を離れることにした。
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