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閻魔庁舎にて
刑罰が行われていない、本当に“名所”と化した針の山を遠くに眺め歩き続けると、やがて大きな建物が見えてきた。その造りはまるで金が余っている田舎の大きな市庁舎のように見える。だが『○○市役所』と書かれているであろう看板には、『地獄 閻魔庁舎』と記されている。
本当に地獄なんだと眺めていると、スーツを着た女性がこちらへと近付いてきた。
「お亡くなりになられた方ですね。地獄へようこそ」
そしてまるで激戦区で生き残る古参兵が如く物騒なセリフを俺に投げかけてきた。更に今更ながらに気が付いたのだがこの女性、肌が朱色で髪は黄色く、頭には2本の角があった。まるで・・・そう、鬼のようであった。
「あ、あぁ、三途の川?で婆さんに案内されてきた」
「あぁ、あの勤続年数だけ異常に長い給料ドロボウですね」
「ズバっと言っちゃうのな」
「鬼ですから」
「で、俺はこれからどうなるんだ?」
「ではご案内させて頂きます。先ずは庁舎に入られたら案内表示に従って窓口を回ってください。7カ所で書類手続きを行う必要がありまして、それが済んだら最終判定となり、行き先が決定します」
「それだけ?」
「業務効率化が進んでおりますので」
「効率化か…という割に7カ所も?」 にゃー
面倒な書類手続きなどは昔から苦手だった。思わず本音が漏れる。
「今後を決める大切な手続きです。これでも簡略化されたんですよ?昔は1つの手続きに7日かかってましたから」
「7x7…もしかして四十九日の意味ってそれだったのか?」
「みたいですね」
「…もしかしてハンコもらって回るだけとか言わねぇよな?」
「その通りです!よく分かりましたね」 にゃ
「この手続き要らねぇだろ…」
「そんな事ありません!ハンコを押す役職が無くなるとその分支出が減って財源が減らされるんです!」
「いい事尽くめじゃねぇか」
「目標とする役職が無くなると、ヒラの職員も減るんですよ」
「…その辺は人間も鬼も替わりねぇって事か」
「生き物ですからね――ってお客様はもう死んでますか」
出来の悪い『地獄ジョーク』を聞かされた後、案内の鬼女に手渡されたわら半紙に印刷されたコースに従い黙々と庁舎内の窓口を回る。
そして7個目の窓口で、
「これで書類手続きは終了になります。次は審査が行われますので、呼ばれるまで『待合室』の方でお待ちください」 うなうなうなおーん
若葉マークの付いた名札を提げる事務員(鬼)へ書類をすべて提出し、番号札を手渡された俺は最後の沙汰を待つのみとなった。
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