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というか――
何で庁舎内に猫が居るんだ?しかもあちこちに…
さっきの窓口なんか仕事中の鬼の肩に乗ってゴロゴロしてたぞ?これもう入り込んでるってレベルじゃないんだが…
…考えても分からないことは考えても仕方ない。ここは地獄なんだしあっちの世界とは違うのだ。そういうものかと受け入れるしかない。ついでに言えば抱っこしたい。モフりたい。
などと考えていると、俺の番号が掲示板に表示された。
俺の地獄の沙汰が決まる――
「失礼します」
腹を括ってドアを開けると、そこには寺に飾ってあるような真っ赤な顔をした――おそらく閻魔大王が、俺を待ち受けていた。威圧感のある顔に古代中国っぽい衣装。豪奢な机。ここだけ見ればイメージ通りの地獄そのものだった。
大王の向かいに椅子は無い。立って沙汰を待つのだろうが、椅子があっても座る気にはなれなかった。大王が許の手帳から俺の経歴を読み上げた。
浅田大介 年齢40台前半辺り
ヤ〇ザであった父親の影響でその道へ。親子きっての武闘派であったが、ねこを拾った事を機に足を洗い真っ当な暮らしをしていた。もめごとの仲裁をしていた時に背中を刺され死亡。
「…ってそれ作者の設定下書き、それも初期のコピペじゃねぇか!面倒か!?考えるの面倒になったか?!一応死んで地獄に来たんだからちゃんとやろうや!」
「過去歴なんて読者も儂も興味ないだろう。文句言うな。あと大声を出すな」
「そりゃそうだろうけど一応仕事だろ?!」
閻魔大王が右腕でちょんちょん、と自分の膝を指さし“こいこい”と手招きしてきた。何事かと思い恐る恐る近付いて覗き込むと、なんとサバトラ白で細身の美人な猫ちゃんが閻魔大王の膝でお昼寝していたのだ。
「仕事と猫とどっちが大事だ?」
この男――閻魔も猫が好きなのか。
「すいません猫ですよね」
不満も疑問も全て投げ捨て、素直にお白砂へと戻る俺。
「ところで…何故地獄に来た?」
「他人に怨まれる事も散々してきたからな。当然だと思ってる」
「ところでお前、猫は好きか?」
「え、あ、あぁ」
ヤ〇ザのくせに。そんな怖い顔をしてるのに。猫が好きとか――昔から散々言われ続けてきた。だから今までは言えなかった。
だが、目の前にいるこの、恐らく日本一強面のこの男は仕事場にまで猫を侍らせるほどのねこ好きであるのならば――
正直になってもいいんじゃないか――俺は声に出していた。
「寝、猫は…好きだ…です」
「嘘を吐くな!猫好きな奴に悪い奴がいるわけないだろ!」
「地獄に墜ちた奴に言う言葉じゃねぇな?!ってかねこは善人悪人問わず好きだと思うんですけど?!」
何故かキレた閻魔にツッコむ俺。すると閻魔の膝に乗っていた猫が――
くかーと大きくあくびをして。
後ろにぎゅーっとのびーをして。
ぴょんと閻魔の膝から降りると。
細く長いしなやかな尻尾をフリフリしながらてくてくと歩いて行ってしまった。
「あ…ベルちゃん、ベールちゃーん………」
その後ろ姿を寂しそうに猫の尻を見送る閻魔。そして猫が見えなくなると、
「ほら!お前が大声出すからベルちゃんが起きてあっち行っちゃったではないかっ!」
俺に向かってキレて来た。
「アンタの声の方がデカいんだが!?」
「珍しいんだぞ?ベルちゃんが自分からお膝に乗ってくるのって!ベルちゃんのお昼寝の邪魔をしたお前は『地獄巡り』の刑に処す!」
「じ、地獄巡りぃ?というか判決が随分身勝手だな!法律とか基準は無ぇのかよ!」
「儂が法だ!」
「いっそ潔いな!」
「喰らえっ!全ての地獄を万遍無く味わう最強の刑罰だっ!」
閻魔がそう叫んで机に拳を振り下ろす。机の上には大きなボタンがあった。
ぽちっ
俺が立っていた場所の床がパカンと開き、
「そういう仕組みかよおぉぉぉぉ――……」
そうして俺は、地獄の刑場へと落とされていった。
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