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等活地獄
「うぅ…な、なんだか胸が重い…」
胸の重みと暖かさに目を覚ます。目を開けると顔の前にもふっとした饅頭のようなものが鎮座していた。これは――
「これは、ね、ねこちゃんっ?!」
そう。猫の尻だ。つまり俺の胸の上に猫が乗っていた。
撫でたい――そう思いそろりそろりと手を伸ばそうとしたその時、横から野太い声が聞こえた。
「下手に動くんじゃねぇぞ、新入り」
かろうじて動かせる首を声の方に向けると、腕枕をして足を変な形に組んだままで頭と肩、脛の上に猫を乗せた厳つい男がプルプルしながらこちらを向いていた。
「よく見えねぇかも知れねぇが、お前さんの体はありとあらゆるところで可愛いねこちゃんが眠っている」
ありとあらゆるところで――ねこちゃんが眠っている!?
「な、なん…だと…?」
体の各所に居るであろうねこちゃんを探知する為、俺は五感をフルに研ぎ澄まし猫ちゃんセンサーを発動させた。
きゅぴいいいいん――
「あぁ…脇の下…股の間…股間の上…計4か所に猫がいる」
「下手に動くと落としちゃうからな。気をつけろ」
寝ているだけで勝手に猫が寄ってくる。いったいどのような場所なのだろうか?
どうにか首だけを起こして見渡せばあちこちに猫だらけ。罪人であろうと思われる人々はみなそれぞれが膝や肩、腹や頭の上に猫を乗せ、猫を抱き、座っていたり寝ていたり、思い思いの格好で身体に猫を乗せている。
「…ここは天国か?」
「いや地獄だ。残念ながらな」
「しかし、座ったり寝ているだけで可愛い猫ちゃん達が寄ってきて登ってくれる…これが地獄とはどういう事だ?これはまさに天国じゃないか?」
「ふっ…そう言って居られるのも今のうちだぜ」
俺に声をかけてきた男はそう言ってそっと目を閉じた。きっと猫ちゃんたちの暖かさに酔いしれているのだろう。
しかし何と心地良いことか……
手を伸ばせばもふもふがすぐそこにあるのだが、両腕も猫達に枕として使われているようで、猫の心地良い暖かさが、腕を動かした事で猫が逃げてしまうのを躊躇わせる。
全身を猫に包み込まれる。何という極楽の体験だろう。
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