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「ここで会ったが百年目だァ。蕎麦でも奢ってやろう!」
「いいよ、お前に貸しをつくると碌なことにならん」
「そういうなよォ。寒いじゃないか。どうせ素寒貧なんだろォ」
そう聞くと腹がギュウとなるものだから、冷泉は更にギャハハと笑った。陽気な冷泉は本当に鬱陶しい。けれども性質としては一番善良ではある。そしていつのまにか肩を掴まれ無理やり歩かされていた。冷泉はヒョロいくせに握力が強い。
そうして見えてきた夜鷹蕎麦でずぞぞと啜っていると、冷泉が妙にじっと俺を睨みつけている。睨んでいる自覚はないのだろうが、眼鏡をつけてない時の冷泉は人相が悪いのだ。そそくさと食べ終わり、じゃあなと別れようとしたら案の定だ。
「ちょっとまてぃ」
「やっぱりかよ。そんで何なんだ」
冷泉はフフンと鼻で笑って石を一つ投げよこしてきた。妙に薄青い石だ。
「何だよこりゃ」
「さてな。それを磨いてくれないか」
「はぁ? 磨くってななんだ」
「さあな? そのうち取りにいくから。それまで絶対割るなよ。割ったら怒るからな!」
そうして俺は屋台にポツリと残された。
掌にちょうど乗る程度の大きさの石。貴重な石のように見え、そうでもないように見える。
わけのわからない物はわけのわからない奴に見せるに限るのだ。
俺は早速翌日、腐れ縁の陰陽師を訪ねて土御門神社に向かえば、白シャツに絣と袴の鷹一郎が門前を掃いていた。
「これはまた、面白いものを手に入れましたね」
「無理やり貸されたんだよ。何だこれは」
「さて、何でしょうかね。とりあえずお茶でもいれましょうか」
いかにも面白そうにくすくすと笑うものだから、俺もいい加減に腹が立ってくる。
「なんでお前らはいつもそうやって、俺を誂おうとするんだ」
「そんなつもりはありません。そもそも石など磨かねばどのような代物かわかるはずないじゃないですか。和氏の璧の話でもそうですよ」
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