君とユニゾンを

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 レッスンの日に優雅の家に響かせるために、彼の耳に届けるためだけに、私はピアノの練習を頑張った。手を抜かなかったのは、私なりの優雅に対する誠意だ。  優雅は、決して上手く弾けない私のために、手元に残った伴奏譜できっと練習するはずだ。そんな優雅の優しさに頼りきった賭けだった。  私が立ち上がったのを皮切りに、クラスじゅうがざわざわと騒ぎ出す。  えー、どういうこと? 広瀬と山下ってそういう関係? うそー、ありえない。広瀬練習してないんじゃない?  そんな言葉に飲み込まれないように、私は背筋をピンと伸ばして自分の席に戻る。  猫背の優雅が、おそるおそるといった雰囲気でピアノへと向かったとき、教室の真ん中から独り言みたいな口調の、よく通る声がした。 「アニメオタクの優雅チャン、ピアノ弾くんだぁ。キモ」 「志乃っ!」  優雅のことなんて、なにも知らないくせに。奏でる音を聴いたこともないくせに。どんなにすごいか、知らないくせに。  自分一人の小さな価値観だけで、馬鹿にするなんて許さない。  初めて怒りを向けた私を、だけど志乃の目がすっと温度を失くして見つめた途端に本能で足がすくんだ。
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