君とユニゾンを

11/14
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「――それではこのあと、合唱コンクールの練習をしましょう。広瀬さん、伴奏できる?」  三浦先生が、できる?と尋ねたのは、伴奏の個人指導で私のピアノの出来栄えを不安に思っているからだ。心配そうな先生と目を真っ直ぐに合わせてから、私は立ち上がった。  書き込みだらけの伴奏譜を手に、ピアノへ向かう。 「狩野くんは前に出て指揮をしてください」  先生の指示で、狩野は全員の見える位置に立った。  私がピアノの椅子に座り鍵盤に指を乗せたのを確認して、狩野は指揮を構えた。  ちょっとはにかんだような狩野と目が合った。彼が合図の腕を振る。  ――ごめん、狩野。私は弾かない。  優雅の部屋の扉の前で、私は決めたんだ。不協和音の響く教室で、自分の気持ちを貫くことを。  狩野の四拍子が空を切り、その手が戸惑いに揺れたあと力なく止まった。  教室全体にざわめきが広がる。そのなかの、驚いた顔のただ一人を私は見つめた。 「優雅!」  突然の私の大声に、教室全体がしん、と静まり返った。その静けさに見せつけるように、優雅のいる場所へと私は声を貫く。 「練習、した?」  たっぷり3拍置いたあと、優雅は小さな声で、だけどはっきりと答えた。 「……した」  私には、その一言で充分だった。安堵で涙が出そうになる。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!