君とユニゾンを

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 志乃のグループには、きっともう戻れない。それがこの先の学校生活でどれほど重大な問題か、ほんとうはよくわかっている。だけど――。  優雅に見返してほしかった。私の憧れた優雅を、馬鹿にされたくなかった。彼のピアノを聴けば、その素晴らしさを思い知るはずだ。  そう思った、これは私の我儘。  唇を強く結んで、私を射抜く志乃の目を見つめ返した。  そのとき、背中に透明な音色が押し寄せた。  煌めいたうねりのような旋律が私たちのあいだの空気を飲み込む。  合図もなく奏で始めた流れるような前奏、打ち寄せる波のような六連符、強弱も完璧で、まるで目の前に突然海が広がった。  寄せては引いていく波のような響きに、私の心も洗われる。  ずっと張り詰めてきた気持ちが緩んで、そして気づいた。  志乃を、みんなを見返したかった。でもそれ以上に、  優雅の音色をみんなに聴いてほしかったんだ。  私が、優雅の伴奏で歌いたかったんだ。    久々に演奏を聴いたけど、やっぱり優雅はすごい。そう思いながら、私は志乃から目を背けてピアノのほうへ向き直る。  教室全体が呆気にとられたような空気の中、優雅の奏でる波音にのせて私は歌い始めた。そこに、かすかに数人の声が重なっていく。  どよめきと戸惑いが場を包み込んでいて、全体としては目も当てられない出来栄えだけど。  私はこの教室のなかで優雅とやっと、心が通じた気がしたんだ。
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