君とユニゾンを

14/14
前へ
/14ページ
次へ
***  案の定、あのあとしばらく私は志乃のグループから外された。  だけど、これまで話したことのなかった隣の席の小森さんが、「このまえの広瀬さん、なんかかっこよかった」と声をかけてくれて、その一言に救われた。  明らかな演奏の上手さは全員が認めるしかなくて、優雅を伴奏者に合唱コンクールの練習は続けられた。  そんななか、予想以上に狩野は指揮者として真摯に取り組んでいた。いつものやる気のない格好のつけ方とは違っていて、私の彼を見る目はほんの少し変わった。  その狩野が志乃になにを言ったかはわからないけど、「狩野に免じて」とか言いながら拍子抜けするほどあっけなく、志乃はまた私と話すようになった。  そうして合唱コンクール本番。  全体の賞は取れなかったけれど、優雅は見事に伴奏者賞を獲ったんだ。    優雅は、だけどその後も教室の隅で同じようなメンバーとカードゲームなんかして過ごしている。  私も、今まで通り志乃のグループで過ごしている。  なにも変わらなかったように見えるけど、ただひとつ。  以前の私なら、志乃の目を気にして避けて通っていた教室の片隅。朝登校したら、そこに向かって真っ直ぐ歩く。  毎朝の、ほとんど一言だけだけど。 「優雅、おはよう」 「……おう」  歪な音階の隙間に一筋流れる、まるでユニゾンのように。 〜おわり〜
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加