君とユニゾンを

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 発表会が終わってからもずっと気になっていて、次のレッスンの終わりにピアノの先生に尋ねてみた。 「発表会ですっごく上手だった男の子、何年生?」  私の目がよほど期待に満ちていたのか、「優雅のこと?」と尋ね返した先生はくすくすと笑っていた。 「夏海(なつみ)ちゃんと同じ、小学三年生よ。私の息子なの」 「ええっ!」  そういえば山下先生なのだ。名字が一緒なのにまるでピンときてなかった私はうっかりものだった。  そして、ピアノの先生の子どもだから上手いんだ、と納得した。  山下先生は、自宅の一室でピアノ教室を開いている。つまりあの子もこの家に住んでいるのだと思うと、座っていたピアノ椅子がなぜだか少しむず痒く感じた。  帰り際レッスン部屋から出たところで、待ってて、と言った山下先生が、階段の下から歌うように呼んだ。 「優雅、ちょっと降りてきて」  なに、と言い返しながら階段を降りてきたのは、発表会のステージで見たままの男の子だった。  すごいと思った名残なのか、外見はまったくイケてないその子は、クラスの男子たちとはほんの少し違って見えた。 「優雅と同じ三年生の、広瀬(ひろせ)夏海ちゃんよ」  にこにこしながら紹介する山下先生に、息子は意図がつかめず丸いメガネの奥から訝しげな視線を送った。しかしそれ以上の広がりはないと悟ったのか、「よろしく」と一言口にして、リビングらしい別の部屋へとそそくさと入っていった。
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