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でももういい。
その話は済んだことじゃん、と思ってそうな顔の奴に綿々言っても全部無駄。
そうそう、こいつもう私の彼氏じゃないシネ。
「……帰る」
「は? でも雪……っ」
「傘だけ貰う。あー、さっさと捨てるから安心して」
「…………」
へらへら笑い、ほらこんな風に、と右手で揃いの指輪を引き抜いて床へ落として見せてから、煙草を押し付け逃げるみたく外へ出て。
これ以上何も考えたくない頭がこの心に見合わないほどに、優雅で華やかな曲を掛ける。
どうせ一駅分を歩くならと誰もいないことをいい事に、気取ってひとり、くるん、と回ってみれば。
当然のことながら足を取られて派手に転び、曲は止み……。
もう痛くて可笑しくて、はらはら涙が落ちた。
期待するな、期待するな、追いかけて来てくれるわけがないんだから。
違う、意地になってるだけでしょ。あんなクズどうでもいいじゃん。
「はは……無理、ガチしんど。ちゃんと喧嘩もさせて貰えないとか、私が可哀想」
静まり返った夜分の冷えを。
私はひっそり、その涙で暖を取り自身を慰める。
終
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