last dance.

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「……ごめん」 「私もう帰る」 いつの間にか暗く淀んだ室内、小さく鼻を啜りながら、中途半端に引いた遮光カーテンから覗く臘雪(ろうせつ)。 深々舞い降る今宵の空は。鮮やかな赤紫色、オペラモーブに染まるのだ。 「積もる空してるわ」 「あー……電車、運休してるって。明日大学どうしよ」 ひとり厚手を羽織ったまま、情報を携帯電話ごと寄越されて。 ちらっと攫いバルコニー前の踊り場で、仕方なしに煙草を挟み自身の口をおもむろに押さえた。 すっ、と短くしかし吐く息は長く。 まるで溜息のような白煙は、重い頭を空っぽにするには丁度いい。 「あのさ……泊まれば?」 首を傾げて火をつけた彼が、酷く気まずそうにそんな良心の上澄みを掬った言葉を燻らす。 立ち上る煙だけは混じり合う様に私は、こんな時くらいメンソールにするんじゃなかったと、鼻腔を刺激されたままで返すのだ。 「別れ話をされた男の部屋に?」 「それは……でも帰れないなら仕方ないじゃん」 ねぇ、仕方ないだってさ。 途端に口汚く罵りたい自身と、惨めだと思いながらも一歩縋りたい自身。 もうどうしたらいいのか分からないし、どうしろって言うんだよと複雑な感情がぐちゃぐちゃに交差するまま。 「誰のせいでこうなってんの。急に呼ばれたと思ったら、前々から他に好きな奴がいた、とかいうあんたの勝手な理由のせいでしょ……」 「だからそれは、ごめんって」 ああ、何でこいつ私より辛そうな顔しているんだろう。 ごめんって、続く台詞はきっとこう。 〝俺、謝ったじゃん〟 は? 許す権利は私にあるだろ。 何が直接会ってきちんと話したいだよ、気が済むまで殴って良いだよ、出来れば友達に戻りたいだよ。 お前に都合いい誠意を見せたつもりで、人の良心に漬け込んでるんじゃん。 極上の粉雪みたいな吹けば飛ぶような言葉を飾ったって、大事にしないでね、面倒だからって端々に溶けて滲み出てるんだよ。
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