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お母さんの、夢を見た。
おれの上にのしかかって、ぐっと首を絞めてくる。
痛い、苦しい、どうして。
いたい、くるしい、なんで、なんであいしてるっていいながら、くびを
呼びかけられて目が覚めた。薄暗い部屋の中、優一郎が手を繋いでくれていた。
「シキ、すごい魘されてた」
「ゆ、いち、ろ」
短い息を何度も繰り返すうち、今いるここが現実なんだと理解した。さっきのは、夢だった。…お母さんの夢、そう、おれを殺そうとしたお母さんの夢。
ぼろ、と目から熱いものが溶けだしてそれが次々に頬に流れて行った。分からない、なんでいまさら思い出したんだろう、お母さんがおれを愛していたってずっと思っていたかったのに。記憶から消していたのに。
しゃくりを上げていると、優一郎が肩を抱き込んで包み込んでくれた。暖かくて、安心する。
「ゆ、いちろ」
「ここにいるよ」
「うん」
「どんな夢を見たのか分からないけど、大丈夫だから」
「うん」
「大丈夫だから」
「……うん」
気づいたら家にいた。優一郎が言うには、外に出て優一郎を探し回ったあの日からシキはまた風邪をひいて寝込んでいたらしい。
家に帰ったら既に熱が出ていて、優一郎は慌てて布団に運んだとか。
今回は前回の風邪より酷くて、全く記憶が無い。しかも4日も寝込んでいたと言う。
優一郎と仲のいい先生も何回も来てくれていたけど、シキには全く記憶はない。名前も教えてくれたらしいけど、そもそも会話した記憶すらない。
「というわけでもう1回教えてください」
「ああ、はいはい。井上翔吾だよ」
「いのうえせんせい…?」
どこかで聞いたことがことがある気がしたけど、シキは聴診器の冷たさで一瞬にして忘れてしまった。
シキが目覚めて数時間、優一郎は泣き止むまでそばにいてくれた。その後すぐに先生を呼んだみたいで、すぐに先生が来た。
「よーし、完治したな。もう無理すんなよー」
「ありがとうございました」
そして先生は横で安堵していた優一郎を部屋から追い出して、ちょっと話したいんだけどと真剣な顔をして言ってきた。
「シキくん、率直に聞くけど…君は今の状況どう思ってる?」
「どう…?」
「優一郎は風邪を引いた君をここに連れてきた訳だけど、多分家に帰らなきゃって思ってるよね?」
「うん、思ってるよ。ここはおれの家じゃないもん」
シキの家はあくまでもあの母親と過ごした家だ。 帰るのは当たり前だし、ピアノもそろそろ弾きたいと思っているところだった。
帰るのは普通なのになんでこんなことを聞いてくるんだろう、と先生を見つめていると先生は困った顔をして白い板を取り出した。
「……優一郎は多分、君を帰したくないと思ってるよ」
「え、」
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