冬 先生

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ぽかんと思わず口を開けてしまった。 優一郎はシキを家に返したくない?なんで? 「君が帰りたいって言ったら、優一郎はここに居ようって言うよ」 「ゆーいちろーは優しいからそんなこと言わないと思う」 「いや、言うよ。それに、優一郎はシキくんが思うほど優しくない」 その言葉にシキは眉を顰めた。優一郎が優しいことは誰よりも知っているつもりだったから。いつも美味しいお菓子をくれる、いつも来てくれる、スマホもくれた、連絡もくれる、いつも笑わせてくれる。 そんな優一郎が、優しくないなんて。 「優一郎は優しい。先生はなんにも分かってない」 シキが睨めつけると、先生は若干びっくりしたように身動ぎした。そしてそのまま、シキの家に来る先生と同じように何かを白い板に書いて、そっか、ごめんねと言ってきた。 「優一郎は優しくしてくれてる?」 「うん、おれを優先してくれてる」 「……そうなんだ。例えば?」 「えっと、この前間違えて家を出た時の話なんだけどね」 優一郎の優しさをアピールするために2回目の風邪で寝込む前に聞いた女の人との会話を言って聞かせたら、なぜだか先生の顔がどんどん怖くなっていった。 なんでそんな顔するんだろう? 「だからね、優一郎は優しいの!おれも女の人もちゃんとどっちも傷つかないように考えてるし!」 「へえ…そうなんだ。シキくんはそれ聞いて何も思わなかったの?」 「?別に…優一郎はおれの時間も大切にしてくれてるって分かってるし」 先生はまたカリカリと何かを書いてペンを置いた。 「もし、優一郎がその女の人を優先してたらどう思った?」 「…………………………」 「シキくん?」 俯いて、考えてみる。 あの時感じた不安、嫌な焦りを。 「……」 「シキくん?」 「…ぐす」 「えっ?!」 気づけばシキの目からは涙が出ていた。ぼろぼろ、ぼろぼろ、なんで泣いてるのかも分からないままシキは暖かな液体を流し続けた。 「ちょ、ちょ、え、どうしたのシキくん!」 「うー……」 シキも涙の止め方が分からなくて目を擦っていると、ドアの外から大きな物音が聞こえてきた。シキがドアの方を向くと同時に優一郎が部屋に飛び込んできて、シキを抱きしめた。 「っ、シキ、どうしたの」 「優一郎…っ」 「先生、シキに何したの」 「……悪い、ちょっと追い詰め過ぎた」 怒る優一郎の声と謝る先生の声。シキは優一郎の胸の中で自分の気持ちがよく分からなくなり泣くしかなかった。
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