冬 先生

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side 優一郎 小さいけど、シキの小さな啜り泣く声が聞こえた気がして寝室に飛び込んだ。ベッドに腰掛けるシキは予想通り泣いていて、優一郎はすぐさまシキを腕にかきこんだ。 「シキ、どうしたの、何言われた?」 そう問うてもシキは首を振るばかりで何も答えてはくれない。一体何を言われたらこんなに泣きじゃくることになるんだろう、と先生を睨みつけた。 「先生…」 「だから悪かったって!ただちょっと…シキくんの気持ちを確認したくて」 「はぁ?」 意味がわからなくて低い声を出すと、先生はお前も悪いと何故か責任転嫁して来た。 「俺?」 「どこぞの馬の骨ともわからない女の人を送り迎えすることになったって?」 「………ああ、クラスメイトの汐里のことか」 名前を呼んだ途端、何故かシキの体がびくりと跳ねた。え、汐里関係でこんなに泣いてるの? 「送りはしないよ、そんなことしたらシキとの時間減っちゃうし。迎えは、危ないからするって言ったけど…」 「お前本当にシキくん大事にしようと思ってる?」 「思ってるに決まってるだろ」 何が言いたいんださっきから。段々とイライラしてきて、シキをさらに強く抱き締めた。その姿を見ると先生はわざとらしくため息をついてきた。 「その態度、今後後悔することになるからな」 「……まじでなんなの、先生」 「忠告はしたからな。俺は帰る」 先生はそう言うと荷物を適当にバッグに詰めて足早に部屋を出て行ってしまった。イライラが収まらないが、とにかくシキを泣き止ませないとと思い隣に座って顔を上げさせた。 目元が真っ赤。多分涙を拭うために擦ったんだろうけど…これは明日腫れるかもしれないなと呟く。そっと目元を触ると既に熱を持っていた。 「優一郎…」 「うん、なに?」 いつのまにか名前の発音が少し流暢になってることに気づき、少し嬉しくなる。そう、シキだけが俺の名前を呼んでくれていたらいいのに…そう優一郎が思っていると、シキはまたぼろりと涙を流した。そしてそのまま胸優一郎の元に飛び込んできた。 本当にどうしたんだろう。でも何故だか聞くとさらに泣きじゃくられそうで聞けない。 少しの間そのまま頭を撫で続けていると、シキは止まらない涙を目に溜めたまま優一郎を見上げてきた。 「優一郎、おれ、家帰る」 「……ん、分かった」 いつかは言われると分かっていたことなのに、帰したくないと思ってしまう。でもダメだ、シキの居場所はここじゃない。…俺の、所じゃない。 シキは大好きな母親のところに帰るべきだ。そう、自分に言い聞かせた。
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