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優一郎が頭を優しく撫でてくれる。…いつもならもっと撫でてくれるけど、今日はシキを送り届けただけだ。帰るんだろう。
「じゃあ、帰るね」
分かっていたことなのに、寂しく感じる。シキは小さく頷き、お世話になりましたとお辞儀をした。
その姿を見て、優一郎は頭を撫でてくれて、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「また明日も来るよ。冬休み終わっちゃったからまた夕方になるけど」
「うん」
「だから、そんな顔しないで」
そんな顔って、どんな顔だろう。自分の顔を触ってみても、シキはどんな顔をしているか分からなかった。
少しすると優一郎は踵を返して帰って行った。シキはぼんやりとして、廊下にこてんと横になった。…風邪ひいたら、また優一郎に会えるのかな。そんなことを考えて、首を振ってだめと否定した。
優一郎は優しいからきっと風邪ひいたらまた助けてくれるんだろうけど、でもそれってすっごく迷惑だろうからしたくない。毎回毎回シキを背負ってこの距離を往復させるのも、やだ。
この距離っていってもどれくらいなのか知らないけど。
「にゃお」
「いちろー…」
一郎がいつのまにかシキの頭の上に来て座っていた。 前は優一郎の髪の色が似ているこの子がいれば寂しくなかったのに、なんでだろう、今は寂しい。
この気持ちも数日すれば消えるんだろうか。
「さみしい…」
こういう時はピアノを弾かなきゃ。忘れなきゃ。そう思って立ち上がり窓を閉めて、リビングの方に向かった。そしてリビングに明かりが着いていることに気づく。
一郎を連れきた時に優一郎が付けっぱなしにしちゃったのかな。なんて思いながらリビングのドアを開けて、シキはヒッと声を上げた。
「……おかえり、シキ」
先生がいた。
そうだ、思い出した。シキの家に来る先生、この人も井上先生だってことを。
「なんで、いるの。まだ、検査日じゃない…」
「そうだね。でも最近風邪が流行りだしたからシキは大丈夫か見に来ることにしたんだよ」
椅子に座ってた先生が、近づいてくる。シキは縮こまって身動きが取れず固まるばかり。
「……そうして今日の昼頃来てみれば誰もいなかった。キッチンを使った形跡もないし、猫もいない。数日前から帰ってないことは明白だ。一応ここで待ってみたら、誰かと話す声がしてね。驚いたよ、ここに佐野家と俺以外の人間が来るなんて」
ゆっくりと後ろに後退したら壁際に追い詰められてしまった。怒ってる、すごく。怖い、怖い、怖い。
「今日中に帰ってこなかったら、捜索願出すところだったよ」
「せんせ、い…ごめんなさ、」
「謝罪なんかいらない……おまえ、今までどこに行ってた」
先生は、12月に受けた検査の時よりずっと怒っていた。
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