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ほっぺたが痛い。口の中も痛い。喋れない。
こんな状態じゃ優一郎に会えない。
どうにか死守したスマホを使って優一郎にちょっとの間会えない、ごめんねと送る。
先生はシキを殴ったあと、青ざめた顔をしてシキを抱きしめながら直ぐに謝ってきた。まるでお母さんみたいに、何度も何度も謝ってきた。シキが大事だから、シキが大事でしかたないから、だからこうするしかなかった、って。
それでもシキは口を割らなかった。どこに行ってたのか、誰かと会ったか、どれくらい家を離れていたのか。
シキに言う気がないと判断した先生は最後には諦めて、シキを寝室に連れて行って寝かせた。先生は昔お母さんが使っていた布団を使って寝ている。
監視だということは流石のシキでも分かった。
布団の中に潜ってスマホを確認すると、どうしたのと優一郎から連絡が来ていた。上手い言い訳が思いつかず、まだごめんね、会えないと書くしか無かった。
自然と涙がこぼれ落ちる。
優一郎に会いたい。会って、話をして、笑い合いたい。
どうして自分だけが外に出てはいけないのか。それを考えるとシキはただただ悲しくなる。外は危ない、でもほんとに危ないの?外には色んなものがあるのに。楽しいもの、美味しいもの、怖いもの、素敵なもの…優一郎だっている。
外は怖くない、危なくない。でも、シキが外に出ることで誰かが不幸になるなら…外に出るのはいけないことなんだと思ってしまう。
「ゆ、いちろ…」
小さく小さく呟いて、シキはスマホを抱きしめて眠りについた。
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