冬 先生

7/12

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
ほっぺたが痛い。口の中も痛い。喋れない。 こんな状態じゃ優一郎に会えない。 どうにか死守したスマホを使って優一郎にちょっとの間会えない、ごめんねと送る。 先生はシキを殴ったあと、青ざめた顔をしてシキを抱きしめながら直ぐに謝ってきた。まるでお母さんみたいに、何度も何度も謝ってきた。シキが大事だから、シキが大事でしかたないから、だからこうするしかなかった、って。 それでもシキは口を割らなかった。どこに行ってたのか、誰かと会ったか、どれくらい家を離れていたのか。 シキに言う気がないと判断した先生は最後には諦めて、シキを寝室に連れて行って寝かせた。先生は昔お母さんが使っていた布団を使って寝ている。 監視だということは流石のシキでも分かった。 布団の中に潜ってスマホを確認すると、どうしたのと優一郎から連絡が来ていた。上手い言い訳が思いつかず、まだごめんね、会えないと書くしか無かった。 自然と涙がこぼれ落ちる。 優一郎に会いたい。会って、話をして、笑い合いたい。 どうして自分だけが外に出てはいけないのか。それを考えるとシキはただただ悲しくなる。外は危ない、でもほんとに危ないの?外には色んなものがあるのに。楽しいもの、美味しいもの、怖いもの、素敵なもの…優一郎だっている。 外は怖くない、危なくない。でも、シキが外に出ることで誰かが不幸になるなら…外に出るのはいけないことなんだと思ってしまう。 「ゆ、いちろ…」 小さく小さく呟いて、シキはスマホを抱きしめて眠りについた。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加