冬 先生

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「先生やめて!返して!」 どうにか死守してきたスマホを先生に取られてしまった。まずい、まずい、まずい。先生に優一郎のことが知られてしまったら、会えなくされてしまう。 先生はシキよりかなり身長が高い。だからシキがどんなに頑張ってもスマホを取りかえせなかった。 先生はスマホに何があるかをチェックしたあと、舌打ちして何かを打って、シキにスマホを返した。 急いで優一郎とのメッセージを見返せば、先生が殴ってくる、なんて有りもしない事実が書かれていた。 「なにこれ!」 「もしシキを大事にしてるならそれで来てくれるよ。良かったねシキ」 「っよくない!先生のバカ!」 1週間くらい監視されていたけど、最初に殴られて以来何もされていない。それなのにわざわざこんな文章書くなんて…。 泣きそうになりながらシキがメッセージを取り消そうと奮闘していると、直ぐに既読になってしまった。これじゃあ、優一郎が来ちゃう。 来ないで、って追加で送ったけどそれには既読がつかない。どうして、なんで、ちゃんと読んでよ。 床に座り込み怯えるシキを他所に、先生は椅子に座ってため息をついた。 「なるほど、シキを誑かした奴がここに来なかったのはシキが来ないように言ってたからなんだね」 ふい、とシキは先生から顔を背けた。 「答えなさいシキ。彼は誰だ」 「…………名前見たなら分かるでしょ」 「そんなことを聞いている訳じゃないって分かってるだろ」 先生がつかつかと寄ってきてシキの前に膝立ちで座った。 「彼どこの誰で、いつ知り合ったのかって聞いてるんだ」 「言わない」 「シキ」 「言っても、先生には意味ない」 「シキ!」 ここ数日で何度怒鳴られただろう。未だに慣れない大声に歯を食いしばって耐えていると、一郎がにゃあ!と言って先生に噛み付いた。 「いって…」 先生が怯んだ隙に、シキはリビングから飛び出した。寝室に駆け込んで鍵を閉めてしまおう、そう思って廊下を走った時。 「シキ!」 懐かしい、声がした。まだ1週間しか経っていないのに、いや、もう1週間も経ってしまったせいで、徐々に声掛けていた好きな声。 優一郎。 「ゆ、っ…」 シキが動くより先に、優一郎がシキを抱きしめていた。シキ大きく暖かい腕、懐かしい夕暮れ時の匂い、優一郎だ。 「なんで、来ちゃったの…」 「シキが危ないって分かってて来ないわけないだろ」 だんだんと安心して目が潤んでくる。肩に顔を押し付けて呻いていると、恐怖は後ろからやってきた。
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