冬 先生

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「君が、シキを連れ出した子か」 先生がそう聞くと、シキは違う、違うよと首を振って否定したのに、優一郎は大人しく頷いた。なんで言っちゃうの、せっかく守ってきたのに。 「そうですけど?そう言うあなたは誰ですか」 「シキの主治医だよ。君がやったことに、俺が怒ってるのはわかるよね」 「…あのままシキを放っておいたら、シキは死んでました。それでもいいなら俺を殴ればいい」 「はぁ?」 先生がどういうことだって顔をしてシキを見てくる。そういえば外に出た理由は一切話していない。…話が拗れた理由ってもしかして、シキのせい? 「あのね…髪乾かさずに寝ちゃったら風邪引いちゃって、優一郎が助けてくれて…」 「それを言いなさい馬鹿!」 ひぅ、と大声を出されて首を竦める。先生はシキの腕を掴んで優一郎から引き離すと、リビングに戻って直ぐに聴診器を服の下に入れてきた。 冷たい!と抗議を入れたら静かにしなさいと怒られた。 「…変な音はしないね。咳は?」 「出てないよ」 「……処置が早かったのかな」 先生は何かを呟いて紙に書き留めると、窓のところから動いていない優一郎のとこに戻った。 「誰かに診せたりしたのか」 「俺が小さい頃からお世話になってる医者に診せた」 「名前は」 「井上翔悟」 名前を聞いた途端先生は目を見開いて、それから黙って頷いた。何がどうしたんだろう、シキには分からなかった。とりあえず先生は優一郎を怒ろうとしなくなったのは分かった。 先生が優一郎に頭を下げる。 「……シキを助けてくれてありがとう。あの子は昔から風邪を引くと喘息になったり肺炎を起こしたりするから気がかりだったんだ」 「それは、別にもうどうだっていいです。好きでしたことです。俺も、勝手に連れ出してすみませんでした。でもそれより…シキを殴ったって、ほんとですか」 「ゆ、ゆういちろ…それは、おれが説明しなかったからで…」 「だからって殴っていい理由にはならない」 どうしよう、先生はもう怒ってないのに優一郎が怒り始めちゃった。だんだん話が大きくなっちゃう。 シキがどうにかフォローしようとするのに、2人は睨み合い始める。 「それは…悪かったと思ってるし、もう本人にも謝った。この子が外に出ることが怖くて、つい叱ってしまった」 「叱ってしまったって、悪びれない言い方ですね。どうしてそこまでシキが外を知るのに関与するんですか。こんなとこにシキを隔離…いや、軟禁して、何がしたいんですか」 先生が言葉に詰まる。かくりって、なに?なんきんってなに?知らない単語が沢山出てくる。二人の会話は難しくてシキは目を回しそうだった。
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