1章 冷たい婚約者

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広間には、伽耶が食事をする音だけが響いていた。 間島に連れられ、案内されたのは西園寺家のダイニングだった。8人ほどが座れそうなテーブルには、カトラリーや食器、グラスなどが綺麗にセッティングされており、赤を基調にした華やかなアレンジメント花が食卓を彩っている。 運ばれてくる料理はどれも豪華なものだったが、それをじっくりと味わう余裕は伽耶にはあまりなかった。 そして、そのまま静かに時間は過ぎ、食事も終盤にさしかかってきた最中。突然、広間の扉がバンッと大きな音を立てて開かれた。 急にした物音に伽耶の体はビクリと震え、その瞳が驚きに染まる。 音のした方に目を向けると、そこには1人の青年が立っていた。彼の瞳を見つめれば遠慮のない冷徹な視線が突き刺さり、伽耶の胸はドクリと嫌な音を立てる。 「おい」 聞こえた声からは、明らかな敵意が伝わってきた。ダイニングに響く冷たく、低い声。 「要様!」と間島が声を荒げ、慌てた様子で駆け寄ってきた。手を止めたまま、目の前の青年に見入ってしまう。間島が「要様」と呼んだのだから、彼が伽耶の婚約者なのだろう。 薄い茶色をしたサラサラの髪と、キリッとした鋭い瞳。筋が通っていてスッとした鼻に薄めの唇をした顔立ちは、まさに眉目秀麗な容貌だった。女である伽耶が見惚れてしまう程整った容姿は、気品溢れる異国の王子のような風格さえ漂っている。 思い描いていた婚約者の姿とは違う彼に、少し驚いた。 「お前か、俺の婚約者だとかいう女は」 10人いれば10人ともが「美男子」だと称えるであろう、端正な顔立ちをした目の前の男。同じ学年とは思えないほど大人びた雰囲気に、伽耶は息を呑んだ。
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