3章 恋心

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***** 「緑が多くて気持ちいい……」 両手を伸ばして鼻からスーッと息を吸うと、森の匂いでいっぱいになる。バルコニーから見える木々の緑は、見ているだけで癒された。 九月の連休に入り、伽耶は要と一緒に西園寺家が所有する軽井沢の別荘へやってきていた。毎年この時期は国内にある別荘で過ごしているらしく、婚約者である伽耶も同伴することになったのだ。 今回は間島や三上をはじめとする、二人の世話係を数人だけ連れてやってきた。何かと周囲が騒がしい学校生活から少し離れることができるのは、今の伽耶にとってはいい息抜きになる。 バルコニーから部屋に戻り、荷物の整理をしていた伽耶。そんな彼女のもとに、コンコンとドアをノックする音の後に「三上です」という声が聞こえてきた。 「どうぞ」 「失礼します」という言葉とともに、三上はお茶のセットを乗せたワゴンを押しながら入ってきた。 「いかがですか?こちらの別荘は」 「空気が新鮮で気持ちいいですね。自然に囲まれてて、何だか癒されます」 紅茶セットの準備をする彼女の様子も、いつもより心なしか弾んでいるように見える。 「朝の散歩も気持ちいいらしいですよ?」 「そうなんですね。明日行ってみようかな」 伽耶はソファに座り、慣れた手つきでお茶を淹れてくれる三上の手元を見つめた。 「今日の夕食はテラスでバーベキューをするそうです」 「テラスで?それは楽しみ」 「夜になると気温も下がってくるので、羽織ものおを忘れになりませんように」 三上はそう言うと、「どうぞ」と、にっこりとした笑みと一緒にティーカップを差し出してくれた。 「いただきます」 ティーカップに手を伸ばした伽耶は、淹れたての紅茶を口に含んだ。彼女の淹れてくれるお茶は、今日も変わらずおいしい。ほっと心が温まる味は、バルコニーの外に広がる緑同様、伽耶のことを癒してくれた。
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