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翌日、約束通りテニスをすることになった二人だったが、結果は散々なものだった。意気揚々と「テニスをしましょう」と誘ったにも関わらず、伽耶とのテニスはろくにラリーも続かず、テニスらしいテニスにならなかったのだ。
結局打ち合いは止めて、要の特別指導が入り、初心者のテニス教室みたいになる始末。
それでも汗をかいて動き回っていると気持ちは晴れかやになり、要もいい気分転換になったようだ。その証拠に、パラソルの下でイスに座りながらドリンクを飲む要の横顔は、スッキリした顔つきだった。
「楽しかったですね」
伽耶が呑気に笑っていうと、要は「お前な……」と言って盛大な溜息をついた。
「あの腕前でよく誘えたな」
「だって久しぶりにやりましたし……」
言い訳がましくそう返したものの、伽耶自身もあれは我ながらひどかったなと思う。
しばらくドリンクを飲みながら休んでいると、「なあ」と不意に要が声をかけてきた。伽耶が要の方を向いて「何ですか?」と尋ねた。
「……どうしてテニスに誘ったんだ?」
静かな、要の声が響く。要の視線は目の前のコートに注がれたままで、伽耶の方は見ていない。
「それは、えっと……」
どう返したらいいか答えに詰まる伽耶に、要はフッと笑った。
「気を遣わせて悪かったな」
そして、伽耶を見る。
「……いい気分転換になった」
そう言った要の表情は、藤堂未央と一緒にいたときの、あの穏やかなそれに少し似ている気がした。
「なら、よかったです」
伽耶の口元には思わず笑みが溢れた。
たとえ一時でも、要の気持ちが安らいだならそれでいい。そんな時間が少しずつ増えるよう、いまは彼に寄り添っていきたい。いつしか、そう思えるようになっていた。
ドリンクの氷がカランと軽やかな音を立てる。遠くの方では鳥の鳴き声が聞こえて、風が伽耶の長い髪をもてあそぶように吹いていた。穏やかな気持ちで過ごす空の下、ただ心地よい沈黙が二人のことを包んでいた。
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