3章 恋心

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夕方になり、支度を済ませた二人は二宮の運転でパーティ会場へと辿り着いた。この辺りでは有名な高級ホテルで、エントランスに着いた二人を二名のドアマンが迎えてくれた。 「西園寺様、藤島様、お待ちしておりました」 こちらへどうぞ、と案内してくれる彼らに伽耶は続こうとしたのだが、隣の要が動かない。ふと目を向けると、腕を出した要が伽耶を見ていた。ああ、とそのポーズを見て納得した伽耶は、要の腕に自分の腕をスルリと絡ませた。 それを確認した要は歩き出すと、伽耶の耳に口元を近づけて「会場では俺のそばにいろよ」と小声で言った。 「は、はい……っ」 かろうじてそう返事をしたものの、その言葉と距離の近さにドキッとして顔が赤くなる。そんな伽耶と対照的に、隣を歩く要は涼しい表情をしているだけだった。 真っ黒なスーツに白いシャツ、黒の蝶ネクタイ姿もよく似合う。隣を歩く伽耶は、ワインレッドのカクテルドレス。 少し自分には大人っぽすぎる気もした伽耶だったが、要の横に立つと、これくらいが丁度いいのかもしれないと思えた。 会場のドアをくぐれば、華やかで煌びやかな世界が広がる。要が足を踏み入れると、周りの視線が彼に注がれるのを肌で感じた。もちろんその視線は隣に連れ添う伽耶にも、おのずと向くことになる。 気を抜かないようにしっかりと背筋を伸ばす。 要の腕を掴む手にいつの間にか力が入っていたらしく、「そんなに気負うなよ」と笑われる。不意打ちの笑みに、伽耶の胸はドキリと音を立てた。 (いろんな意味で、今日のパーティは落ち着かない……)
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