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パーティが終わったあと、要は会場を出て、伽耶をカフェへ連れていった。カフェがある階に着くまでの間、要はほとんどしゃべらなかった。伽耶は何も聞くこともできずに、ただ要の少し後ろを着いていくことしか出来なかった。
「飲みたいものは?」
席に着くと、要はそう言って伽耶に視線を移した。メニューを見て、カフェラテを一つ頼むと、スタッフは「かしこまりました」と頭を下げ、厨房へと去っていく。また要と伽耶、二人だけの空間になり、伽耶はちらりと前を見た。
目の前に座る要は、頬杖をついて窓の外を見ていた。
艶のある薄い茶色の髪。キリッとした涼しげな瞳。筋の通った高い鼻。形の良い唇。こうして外を眺めている姿だけでも、要の容姿は絵になっていた。
「……さっきの奴、いただろ」
窓の外を見つめたまま、要がぽつりと呟いた。
「あの人は未央の兄貴だ。昔一度だけ会ったことがある」
淡々と話す要の言葉を受け止めながら、伽耶はじっとその横顔を見つめた。
要の言葉と、その表情だけで『彼女のお兄さん』だという充との間でどんな会話がなされていたのか分かった気がした。だからこそ要が今こうして、こんな顔をしている理由も、何を考えているのかも。
そんな中、「お待たせしました」というスタッフの声とともに、先ほど注文したドリンクが届いた。伽耶の前には、ハートのラテアートが施された温かいカフェラテ。要はテーブルに置かれたグラスを手に取ると、ぼんやりとした目でそれを眺めていた。
それから伽耶は何もしゃべらない要に付き合い、ただ側にいた。先ほどの話の続きを聞くわけでもなく、何か他の話題を振るわけでもなく。遠く離れた場所にいる彼女を思う要の、ただ側にいた。
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