3章 恋心

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「要さん、大丈夫ですか?」 カフェラウンジから客室へ向かうエレベーターの中で、伽耶は壁に背を預け、下を向く要の顔を覗き込んだ。要の顔色が、あまり優れないように見えたからだ。 休暇のために別荘に来たとはいえ、伽耶と一緒にいないときには自室にこもって勉強をしていたと三上から聞いていた。長時間のパーティに気疲れもあったのかもしれない。迎えの車を呼ぼうと、電話をしようとしたのだが、 『今日はもうここに泊まる』 そう言ってスマホを持つ手を掴まれた。どうしようかと悩んだけれど、疲れている様子だったので早くベッドで休ませた方がいいかもしれない。そう思い、伽耶はスタッフに宿泊部屋の手配を頼み、間島と二宮にその旨を伝えることにしたのだ。 「……平気だ、これくらい」 エレベーターの電子パネルが目的の階を表示した。目の前のドアが左右に開くと、要は伽耶の手を取ってエレベーターを降りる。その手の力は、いつもより少しだけ強い気がした。伽耶は、そんな要の後を引っ張られるようについていった。 部屋の前に着くと、要はカードキーを挿し込んでガチャリとドアを開けた。そのまま手を引かれ、一緒に中に入れば、ソファやテーブルの奥に大きなキングサイズのベッドがある。ガラス張りの窓の向こうには、夜の帳がおりた街の灯りが広がっていた。 要は手に持っていたカードキーをソファに投げつけると、ベッドの縁に座り込む。 「お水、いりますか?」 伽耶は慌てて備え付けの冷蔵庫に駆け寄り、中に入っていたミネラルウォーターを取り出した。それを持って要の側に行くと、「はい」と目の前に差し出す。その瞬間、伽耶を見上げる要と、目が合った。 いつもは鋭いその瞳が、どこか縋るような、それでいて苦しんでいるような、そんな目に見えた。いつもと違う状況に、急にドキドキしてきた伽耶は、パッと目を逸らした。しかし、次の瞬間——。 「あ……っ」 ミネラルウォーターを持っていた手が突然引かれ、バランスを崩す。床に落ちたペットボトルが、ゴロゴロと転がってソファの足にぶつかった。 気が付けば、伽耶は要の腕の中にいた。
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