280人が本棚に入れています
本棚に追加
「要さん……!もう終わったんですか?」
読んでいた記事がデートスポットだっただけに、何だか恥ずかしくなった伽耶は慌てて雑誌を閉じた。不自然に早口になり、動揺してるのが要にはバレバレだろうが、本人は「ああ。遅くなって悪かったな」と言うだけだった。
辺りを見渡すと、いつの間にか外は暗くなっており、周りにいた生徒たちもほとんどいない。先ほどのページに触れられなかったことに一息ついた伽耶だったが、それも束の間。
「で、どうなんだ?」
要は座っている伽耶の後ろから雑誌を開き、ページをパラパラと捲り出す。話はまだ続いていたらしい。伽耶は「えーっと……」と言葉に詰まらせる。
(距離が近い……!)
触れてしまいそうな、背中に感じる気配に、耳元で聞こえる要の低い声がくすぐったい。
そんな伽耶にも気づかず、ひたすら雑誌のページをめくっていた要の手が止まった。雑誌に目線を戻すと、先程まで伽耶が見ていた特集記事のページが開かれていた。いたたまれなくなった伽耶は、「ここに載ってるガーベラが綺麗だな〜って見てただけで……」と言い、言葉を濁す。
「……確かに、綺麗だな」
要がガーベラの写真を指でなぞる。そのまま黙ってしまった要の横顔を覗くと、目線は雑誌に向けられたまま。
「帰りましょうか!もう、こんな時間……!」
伽耶がバッと勢いよく立ち上がると、要も手元の腕時計を見て「そうだな」と呟いた。
「もう二宮が着いてる頃だ。帰るか」
「はい」
伽耶は読み終えた雑誌を片付けた後、入り口の壁に寄りかかって待っている要の元へ駆け寄った。胸のドキドキは、少しだけ落ち着いた気がする。
最初のコメントを投稿しよう!