3章 恋心

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翌週、要と一緒に帰る水曜日の放課後、伽耶は家の用事で来れなくなった雪乃に代わり、花壇の手入れをしていた。 場所は中庭。段取りもすっかり覚えたので、今では一人で作業をする時間も増えた。花壇には青や白のルリマツリが綺麗に咲いている。美しい花は見ているだけで心が安らぎ、癒された。 (あとは、あっち側の花壇ね) 伽耶はホースを引っ張り、先端から飛び出る水しぶきを見つめた。陽の光が反射してキラキラと輝く雫。周りが校舎で囲まれているこの場所は、穏やかな風が吹いていて、とても静かだった。 「ふう……」 校舎寄りの花壇の水やりを終え、水を止める。もう少し奥の方の花壇の手入れが終わったら、図書館で要を待つことにしようと思い、ホースを伸ばしながら、中庭を歩く。花壇を彩る花たちは、凛と背筋を伸ばすように並んでいて、力強く太陽に向かって咲いていた。 (いい天気……) 雲一つない快晴の空は、どこまでも青い。爽やかな空模様に、伽耶の気分も心なしか軽くなった。しかし——。 (あ……) ふと、伽耶の足が止まる。中庭の中央にあるベンチ。そこに腕で目元を隠し、座っている女子生徒の姿が目に入ったからだ。 少し離れた場所からでも、それが誰だかすぐに分かった。 ひとつに束ねた艶やかな髪。制服の裾から伸びるすらりとした手足。何よりそこは、要と”彼女”が一緒に過ごしていた場所だったから。
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