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「ちょっと待ってください……。それって……」
伽耶の頭に、浮かび上がったある考えが過ぎる。
「ウチの会社も西園寺家の力が欲しいって訳。別に要が好きで一緒にいたんじゃないわ」
その言葉を聞いて、婚約パーティの夜を思い出す。
「そりゃ西園寺家の妻の座が手に入らないのは惜しいけど、要じゃなくても他に男はいるもの」
そんな言葉を聞き、伽耶はショックだった。
要は未央のことを、きっととても大切に想っていた。いつも張り詰めた空気を纏っている要が、唯一穏やかに過ごせる場所。それが未央の隣だったのに。俯いた伽耶は、手のひらをギュッと握り締めた。
『……俺の周りには昔からあんな女が多かった。権力と財産に目がない、そんな人間ばかりに何度辟易させられたか分からない』
そう言って寂しそう顔を見せた要を思い出す。
(私は要さんに、もうそんな思いはして欲しくない……)
顔を上げた伽耶は、相対する未央をキッと睨みつけた。
「……もう、要さんに近づかないでください」
二人の関係は、親同士が勝手に決めた婚約者に過ぎない。それでも歩み寄ろうとしてくれている要に、伽耶も寄り添っていきたいと思っている。
「これからは、私が彼を支えていきます」
毅然とした態度で、そう言い切った伽耶。一方、未央は「そう」とだけ返して、伽耶の隣を通り過ぎていく。その時、フッと未央が笑った気がした。その意味が分からぬまま、伽耶は振り向くことなく、その場を立ち去った。
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