3章 恋心

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「……伽耶?」 帰りの車内、要が自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、伽耶はパッと顔を上げた。要の方を見ると、窓に肘を置いてこちらを見る要と目が合った。 「どうかしたのか?そんな顔して」 「あ、いえ……すみません。ちょっと、ボーッとしていて」 「疲れてるなら週末のパーティは俺1人で出てもいいが?」 要の言葉に、そう言えば先ほどから年内に行われるパーティの予定について話してことと思い出す。パーティには婚約者が同伴するのが通例。もちろん伽耶も、全て出席するつもりだった。 「大丈夫です。予定通り出席でお願いします」 「……分かった。でも、体調が悪かったら家で安静にしとけよ」 「いえ、本当に大丈夫です……!ちょっと、ぼんやりしていただけで」 「そうか?なら、ドレスの色が決まったら三上に知らせておいてくれ」 「分かりました」 要はそう言うと手元の招待状を封筒にしまって、運転席にいる二宮さんに預けた。伽耶は視線だけ窓の外にやり、少し前の未央とのやり取りを思い返す。 『ウチの会社も西園寺家の力が欲しいって訳。別に要が好きで一緒にいたんじゃないわ』 あの事実を、要は知っているのだろうか。だから要は未央と別れ、伽耶と婚約する道を選んだのだろうか。真実を知りたい気持ちは山々だった。けれど、それを直接聞く勇気はない。 (知らないフリをしてしまう……?それとも、要さんに直接聞くべき……?) 頭の中をいろんな思いがぐるぐる回り、自然と眉間に力が入る。 「やっぱり体調悪いのか?」 「……っ!」 伽耶が頭を抱えていると、突然伸びてきた要の手。その手は、伽耶の額に触れていた。驚いた伽耶は、目を大きく見開いて、一瞬息を止めてしまう。触れた場所から伝わる要の体温に、胸がドキドキと高鳴った。 「熱はないな」 離れていく手を少し名残惜しく感じながら、動揺していることを悟られないように、「ホントに大丈夫ですよ」と笑ってみせる。 要はしばらく伽耶の顔を見つめていたが、「……そうか」と呟くと、目線を窓の外へと移してしまった。 伽耶の胸のモヤモヤは残ったまま。その日の習い事のレッスンにはあまり集中できなかった。
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