1章 冷たい婚約者

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記憶にある伽耶の両親の姿は、いつだって冷たかった。 藤島家は高級旅館を数多く経営している老舗企業だ。父はその跡取り息子、母は由緒ある呉服屋の令嬢である。 そんな2人には互いに想い人がいたのだが、親同士が決めた政略結婚によって、その相手とは破談に。愛のない仮面夫婦となり、跡継ぎを産むためだけに子どもを作った。 その藤島家の長女として産まれたのが、伽耶である。 跡継ぎを望んでいた2人は、生まれた子どもが男の子ではなかったことをひどく残念がった。その後も子宝には恵まれず、結局子どもは伽耶だけ。跡継ぎが生まれないことをきっかけに、2人はケンカの絶えない日々を送り、たった一人の娘のことも屋敷の使用人に任せきりで、ろくに子育てをしようともしなかった。 それでも幼い伽耶は、両親の気を引こうと勉強や習い事を必死に頑張った。学校の勉強はもちろん、英語や中国語、フランス語などの語学勉強、華道に茶道、ピアノ、バイオリン。どれも日々、一生懸命に取り組んだ。 良い子になれば、自分を見てくれる。 子どもながらに、そんな思いがあったのかもしれない。空気のように扱われ、たまに顔を合わせても見向きもされない。そんな両親に、自分を見てもらいたかったのだ。
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