1章 冷たい婚約者

4/37
前へ
/154ページ
次へ
「お待ちしておりました、伽耶お嬢様」 翌朝。婚約者である西園寺邸に着いた伽耶を迎えてくれたのは、初老の男性だった。 白髪混じりの髪とヒゲ、そして目元には銀縁の眼鏡。真っ黒な燕尾服をビシッと着こなし、お辞儀をする姿はとても上品で、紳士的に見える。 「初めまして、今日からお世話になります。藤島伽耶と申します」 「わたくしは、執事の間島(まじま)と申します。ようこそ、おいでくださいました」 伽耶の挨拶にも丁寧に返し、顔には常に柔和な笑み。眼鏡の奥に見える優しい目が、間島の性格を物語っていた。 そんな間島の後に続き、玄関までのわずかな道のりを歩く。ちらりと振り返って庭を見渡すと、伽耶は改めてその広大さに驚いた。 中世のヨーロッパ貴族が住んでいるような、洋風の屋敷。 庭には色とりどりの花が咲き乱れ、華やかで美しい。鮮やかなラベンダーに、可憐なチューリップ、大輪のシャクヤク、八重咲きのぺニュニア。そこかしこに咲く花々に、伽耶の心はほんの少しだけ和らいだ。 「素敵なお庭ですね」 伽耶が言うと、間島は目尻をゆるませ「西園寺家自慢の庭でございます」と笑う。 「奥には、様々な品種の花を集めた薔薇園もございますよ。また、お時間がある時にご案内しましょう」 「ええ、ぜひ」 「さぁ、中へどうぞ。屋敷の者も待っております」 そう言われ間島の後に続いた伽耶は、気を引き締め、大きくそびえ立つ屋敷の中へと足を踏み入れた。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

280人が本棚に入れています
本棚に追加