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「お待ちしておりました、伽耶お嬢様」
翌朝。婚約者である西園寺邸に着いた伽耶を迎えてくれたのは、初老の男性だった。
白髪混じりの髪とヒゲ、そして目元には銀縁の眼鏡。真っ黒な燕尾服をビシッと着こなし、お辞儀をする姿はとても上品で、紳士的に見える。
「初めまして、今日からお世話になります。藤島伽耶と申します」
「わたくしは、執事の間島と申します。ようこそ、おいでくださいました」
伽耶の挨拶にも丁寧に返し、顔には常に柔和な笑み。眼鏡の奥に見える優しい目が、間島の性格を物語っていた。
そんな間島の後に続き、玄関までのわずかな道のりを歩く。ちらりと振り返って庭を見渡すと、伽耶は改めてその広大さに驚いた。
中世のヨーロッパ貴族が住んでいるような、洋風の屋敷。
庭には色とりどりの花が咲き乱れ、華やかで美しい。鮮やかなラベンダーに、可憐なチューリップ、大輪のシャクヤク、八重咲きのぺニュニア。そこかしこに咲く花々に、伽耶の心はほんの少しだけ和らいだ。
「素敵なお庭ですね」
伽耶が言うと、間島は目尻をゆるませ「西園寺家自慢の庭でございます」と笑う。
「奥には、様々な品種の花を集めた薔薇園もございますよ。また、お時間がある時にご案内しましょう」
「ええ、ぜひ」
「さぁ、中へどうぞ。屋敷の者も待っております」
そう言われ間島の後に続いた伽耶は、気を引き締め、大きくそびえ立つ屋敷の中へと足を踏み入れた。
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