1章 冷たい婚約者

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「お茶をご用意いたしますので、こちらでお掛けになってお待ちください」 「ありがとうございます」 応接室に案内された伽耶は、言われるがままソファに腰を下ろした。玄関で大勢の使用人に出迎えられたことにも驚いたが、周りを見渡して、改めて西園寺家のすごさを目の当たりにする。 壁の絵画や、ショーケースに飾られているティーセット、煌びやかなシャンデリアに、アンティークな家具。映画で見かける貴族の屋敷にいるような造りの部屋は、純和風の邸宅に住んでいた伽耶にとっては別世界のように感じられた。 自分は今日から、ここで暮らす。改めてそう思うと不安が胸に広がった。 会ったこともない人と、決められた結婚。広いこの大きな屋敷には伽耶の知り合いなどおらず、気心知れた者など、もちろん誰1人としていない。 ――上手くやっていけるだろうか。 伽耶の頭に、そんな弱音がふと()ぎった。 しかし、それも束の間のこと。伽耶は、そんな気持ちを振り払うかのように小さく深呼吸をして、姿勢を正す。偽りの笑顔を無理矢理浮かべ、心の中で何度も己に言い聞かせる。 ここで気をつけるのは、夫となる婚約者に嫌われないように生きること。 そして、どんな時でも笑ってみせて、ただ与えられた居場所に必死にしがみつくことだけだ、と――。
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