1章 冷たい婚約者

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間島が用意してくれたのは、アッサムとパステルカラーのマカロンだった。 ティーカップは、白に金字で描かれた繊細で華やかなデザインのもので、マカロンは西園寺家専属のパティシエが作ったとのこと。ゲストのためにと、細やかな気遣いが感じられるもてなしだったが、それを十分に堪能できるほど、伽耶の緊張は解れてはくれなかった。 味なんて、正直あまり分からなかったけれど、伽耶はにこりと笑って「とても美味しいです」と礼を言った。 「お口に合ったようでよかったです」 間島はワゴンの上にあるティーポットを拭く手を止め、胸元に手を当ててお辞儀をする。その優雅な様を横目で見つめながら、伽耶はふと疑問に思ったことを口にした。 「あの……婚約者の、要様はどちらに?」 「実は急ぎの用で、今は学校に行ってらっしゃいます。夕方には帰るとお聞きしておりますので、ご夕食の時間にはお会いできるかと」 「日曜なのに、学校へ?」 「ええ。生徒会長を務めていらっしゃるので、こういったことは稀にあります。せっかく、お越しいただいたのに、お待たせすることになり申し訳ございません」 頭を下げて詫びる間島に、伽耶は顔を上げるように言った。 「いえ。生徒会のお仕事があるのなら、仕方ありません。どうぞお気遣いなく」 その目に怒りはない。伽耶は、にっこりと綺麗に笑い、優雅にティーカップに口をつけ、何でもない風を装った。しかし、そんな表情とは裏腹に、胸の内は心穏やかではなかった。 (婚約者が来るとわかってるはずなのに、学校に……? 本当に急用なのかしら……) まだ顔も知らぬ婚約者のことを思うと、不安は尽きない。紅茶に映る憂鬱な表情をした自分の顔が、それを余計に助長させた気がした。
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