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紅茶と茶菓子のもてなしを受けた後、間島から伽耶の身の回りの世話をしてくれるメイドを紹介された。
メイドの名前は、三上。年は伽耶よりも7歳年上と、屋敷の中では1番年齢が近いらしい。ツヤツヤとした黒髪は頭の下でまとめられており、上品で清潔感のある出で立ち。肌は白く、目元はきりっとしていて、知的な印象を受ける。
婚約者が帰宅するまで時間があった。伽耶はメイドの案内で用意された部屋で待つことになった。
「何かご用がございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます」
「では、失礼いたします」
三上が部屋から出ていったのを見送ると、伽耶はベッドの縁に座り込んだ。
室内はとても広く、アンティークな家具で統一されたお姫様の部屋のよう。中央にはテーブルと2〜3人が座れそうなソファ、窓際には机と椅子、本棚があり、その右隣には天蓋付きのベッド。左側には洋服や服飾品がずらりと並ぶウォークインクローゼットがあった。
伽耶は辺りを見渡したあと、小さくため息をついた。
部屋には誰もいないのに、落ち着かない。1人で過ごすには十分な広さだったが、逆に広すぎて、どこか寂しさを感じさせる空間だった。バタンとベッドに倒れ、天井を見上げる。
「……緊張する」
婚約者の名は、西園寺要。年齢は伽耶と同じ年。それに「生徒会長である」という新たな情報も加わったものの、写真も見たことがないため顔だって分からないままだ。そんな人と、決められた結婚。
――数時間後に対面する婚約者は、どんな人物なのだろうか。
伽耶は、まだ見ぬ婚約者に思いを馳せた。
出来れば、婚約者とは良い関係を築いていきたい。そうすれば、実家で暮らしていた時とは違う人生を送れるかもしれない、と淡い期待を胸に抱く。
婚約者が帰宅するまでの間、そんな期待と、そうでなかったらという不安が交差して、伽耶は一向に落ち着くことが出来なかった。
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