3章 恋心

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***** まだまだジリジリとした暑い日が続く中、今日から帝桜学園も二学期がスタートした。 「ほら、あの人らしいよ?西園寺様の婚約者」 「え、彼女いたでしょ!別れちゃったの?」 「政略結婚だってー、仕方ないよね」 「あの藤島グループの令嬢がこの学園に通ってたとは」 二宮が運転してくれた車を伽耶が降ると、昇降口に着くまでの間に周りからそんな声が聞こえてきた。夏休み前とは違う周囲の視線。正式に発表された婚約のニュースは、すでに学園中に知れ渡っているようだった。 「家の事情で無理やり別れさせられたって話だよ」 「ひどいよねー」 「あんなに仲良かったのにさ」 好奇の目で晒されることはある程度予想していたものの、居心地はよくない。けれど、遠くから聞こえる、いろんな声が交じり合った言葉は受け流すしかなかった。 伽耶は涼しい顔を装って教室までの道のりを歩く。いつもより少しだけ、背筋を伸ばして。 教室に入ると、やっぱりそこにも僅かな違和感があった。 直接要との話を聞いてくるような生徒はいないものの、皆どこかその話題を気にしているのが伝わってくる。 目が合うクラスメイト達と挨拶を交わして席につくと、溜息が零れそうだった。そして、かばんの中からテキストやノートを取り出し、机の中に入れる。 と、そのとき、グシャリという音が聞こえて首を傾げる。中の様子を見てみると、そこにはノートの切れ端のような紙が入っていた。取り出して開いてみれば、そこには予想通り要との婚約を非難する誹謗中傷の言葉が連ねられていた。 「はぁ……」 我慢していた溜息は、やっぱり漏れてしまった。丸めた紙切れを見つめながら、伽耶は要の人気がいかに高いかを改めて痛感せざるを得なかった
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