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美月は圭一を見る。
圭一も美月を見る。
しん、と教室が一層静かになった気がした。
先に口火を切ったのは美月だ。
「……いっせーのーで、で言おっか?」
「……いいけど」
お互い、視線を合わせてはふいとそらす。
心なしか心臓がドクンと震えた気がした。
「じゃあいくよ? いっせーのーで!」
「家から近いから」
「家から近いから」
お互い顔を見合わせてぷっと吹き出す。
「もー、何それ」
「美月こそ。そんな理由で高校選ぶなよ」
「どの口が言うのよ!」
頬を膨らます美月を無視して、圭一は「ほら、そこの綴り違ってるぞ」とノートを指摘する。
ぶーぶー文句を言いながらも美月は圭一の指示に従い大人しく間違いを直した。
「私、圭くんがいないとダメなんだよねー。勉強教えてもらえないじゃん?」
「そうだと思うよ。俺くらいしか美月に勉強を教えてやれないだろうな」
どことなく歯がゆい感じがするのはなぜだろうか。
奥の方でモヤッとする気持ちが渦巻くのはなぜだろう。
(本当は、圭くんと同じ高校に行きたかったから)
(本当は、美月と同じ高校に行きたかったから)
静かな教室で、打ち明けられない心の内を抱えながら、同じ高校に通えている幸せを噛みしめる。
いつまでもこの時間が続きますように、と――。
【END】
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