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そう言えばダイエット
マンションの部屋に戻って最初に調理器具の確認をした。
お鍋もフライパンもなくって、まな板と包丁はあったけれど、ピカピカの新品です、って感じで、本当にカップ麺しか作ったことがなかったんだな、と思った。
よし。
きっと私、一生懸命お母さんにお料理を習って、健康的な食事を戸田くんに提供出来るようになるからね。
…でも、私は夏に向けてダイエットがしたいし。
そうだ!戸田くんと一緒にご飯を食べる時だけは、チートディってことにしよう!
…って、これだから私は、いつもダイエットに挫折しちゃうのかも。
「…、む。なんで。…戸田くん、体重…、やっぱいい!聞かないことにする」
「あはは!くすぐったい、何、突然!」
「ええ…、細い…」
「ああ、…弱そうに見えるかな」
「そんなことないんだ。…でも、彼氏よりも丸い彼女って…どうなのかなあ~」
狭いキッチンから奥の部屋へ入るところだった戸田くんの背中を見て、私は脇腹を左右からギュッとつまんでみた。
Tシャツの裾に隠れているジーパンのベルトの部分の少し上、そこはちょうどウェストのはずで、キューっと指が内側に吸い込まれて行くようだった。
いやでも、羨ましいって言うよりも心配だよ、もう。
お茶碗もお椀もお箸もフォークもナイフもスプーンもグラスも、ぜーんぶ一人分しか揃っていなかったのをさっきシンクの側で見かけたし、私の分も今度買いに行こう。
小さめのを選んで、自分は量を調節すればいい。
だって、ご飯は一緒に食べた方が美味しいもんね。
「別に丸くなんかないでしょ。ちょうどいいと思うよ」
「うん、…多分、今は恋愛フィルターってのがかかってるんだと思う…」
「面白いね、発想が。香歩って」
コンビニ袋をテーブルの下に置いて、戸田くんはカーペットの上に自然とあぐらをかいた。
またもや意外な姿に、無駄にときめいてしまう。
頭をフルフルと振って目を覚ますと、私も側へ寄って同じようにカーペットの上に脚を崩して正座をした。
わざと寄りかかって、ぺたっと肩をくっつけてみる。
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