73人が本棚に入れています
本棚に追加
甘いレモン一個
そんなことないよ、だとか、きっと勘違いだよ、だなんて私が言ったところで、戸田くんはそう思ってるんだから、ただ彼を否定するだけの言葉にしかならない。
戸田くんのお母さんは、愛情を表現することに対して不器用な人だったのかもしれない、そう私が感じたとしたって、それは私の考えでしかない。
だから、何も言えることなんてないんだ。
出来ることがあるとすればそれは、戸田くんには、私の気持ちが伝わるように、いつだって真っすぐに接すること。
私からの愛情は、きっとまだ成熟してなくて、どれだけたくさん戸田くんに向けたところで、心の穴は埋まらないかもしれないけど。
でも、いいよね?
だって、私はそうすることを躊躇ったりしない。
恥ずかしいって思わないし、誤魔化す気もないんだから。
「ね、戸田くん、…話すの、大変?大丈夫?」
「…気を使わせちゃうようなことまで、言っちゃったね。ごめん。だけど、大丈夫。ただ、香歩が聞くのがツラかったら、やめるよ」
「…私が戸田くんのことを知るってさ、戸田くんにとっては、ちゃんと意味があることなんだよね?」
「うん…。こんな、重たい話をさ、知っても。側にいるって、答えてくれるのか、…」
「そうだなあ。私さ、今でも酸っぱいイメージのままかな?今の私は、戸田くんにとって、…」
甘くて、癒される、そんな存在になれていたなら。
そう私が言ってしまえば、きっと気を悪くさせないようにと、戸田くんは頷くだろう。
それじゃ、本心じゃない感じがするから、戸田くんの言葉で教えて欲しい。
目を閉じて、私からのキスをする。
何度だって、するからね。
言葉での愛情表現も、仕草での愛情表現も、どっちもいっぱい戸田くんにあげるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!