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覚悟
私だって、覚悟もなく泊りに来たわけじゃないってところを見せなくちゃ、って思ったんだけど、戸田くんの唇に隙間はあかなくて。
後ろにあるベットに、私が体重を乗せて寄りかかったことで、彼は固まってしまった。
ー 真面目な話してるのに、って怒っちゃっただろうか。
慌てて体を離すと、手のひらで顔を覆って、うつむいてしまった戸田くんが、ぼそぼそと喋る。
それは、もう一つのレモンなんだろう、ってわかる。
もちろん頷いて、受け止めるよ、って言うかわりに今度は額にキスをした。
「…兄が、海外に行ったら、僕は完全に一人ぼっちだと思ってたんだ」
「今から。もう、そうじゃないんだよ。私、戸田くんのこと一人にしないもん」
「…うん。…口にして、悲しくなる暇、なかった」
「悲しくならないで欲しいもん」
「…僕も、香歩に、悲しい想いさせたくないな」
「しないよ、私、悲しい想いなんか。戸田くんがいるから」
「…うん、…香歩の髪の色が今は、本当に蜂蜜みたいに見えるよ」
ギュって抱きしめ合って、これ以上のことは今夜はないんだって思った。
私は、いいのにな、って言いたかったけど、きっとまた固まっちゃうからやめておいた。
それから、なんとなく。
なんとなくなんだけど。
あの小説で、主人公の感情を管理していた僧侶こそが、戸田くん自身の姿だったんじゃないか、なんて思えた。
たかだか小説、と言われてしまえばそれまでなんだけど。
私は、魔女の香歩は、出来れば僧侶の方にこそ、興味があったりする。
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