同志

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同志

 なんだか、ひどく沈んだ気持ちになってしまって、痛む脚を引きずって幽霊のような気持ちで家に帰った。  明日から私はもう、絵を描かないと決めた。  そうしたら、泣き出しそうになった。  なんでもいいから、他に頭をいっぱいにしてくれるものが必要だった。  自室に入ると扉を閉めて、スマホに目を落とす。  そんな時に出会ったのが、戸田くんの小説だった。  主人公が事故にあってファンタジーの世界に転生する、って言うよくある筋書きだったけれど、パーティーのみんなから感情が乱れないように管理されて、守られている彼はいつもすんでのところで正気で穏やかで。  まるで今までの自分のようだった。  お父さんやお母さん、志歩や先生、周囲の人から「発達障害の特性」として大目に見てもらえるように配慮され、生きやすいようになだらかな道を用意してもらって来た私。  そのことに気が付けたのは、ギャルの見た目を父が止めた時だ。  目立つと言うだけで、普通なら出くわさないやっかいごとから目をつけられるようになる。  解決して行ける自信があるのなら良いけれど、私は理性的じゃないから無理だと言われた。  以前だったら、父の言うことを聞いていたと思う。  だけど私は変わりたかった。  中学校には、あの事件以来卒業まで行かなかった。  高校生になる時、私は変わりたいって思ってた。  いじけたままで、暗くてじめじめした心のまんま過ごすのは嫌だった。  きっかけを待ってた。  物語の主人公も、自分の想いに気が付きはじめてるところだった。  大きく胸が高鳴る出来事を、じりじりと待っていた。  まるで、別の世界の同志みたいに思ってた。
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