素直

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素直

 バタン!!!!  「え、ちょっと、待って!」  さすがに早朝から男の子を連れて自宅に帰ると言うのもおかしいか、と思い、戸田くんと相談して9時過ぎにマンションを出た。  道すがら、戸田くんは緊張はしているみたいだったけれど、それでも一晩眠っていないせいか、妙にテンションが高くて、二人で好きな曲の話なんかしながら時々歌って、楽しく過ごしていた。  うちは大きくはないけれど、二階建ての庭付きの一軒家で、周囲を塀が囲んでいて、ドアの前には門がある。  その、門のところにお父さんが立っているのが、数メートル先から見て取れて、私は戸田くんの手を掴むと走り寄った。  元気良く「ただいま」と言って、「私の彼氏!」と伝えると、びっくりした顔で家の中へ入って行ってしまった。  「…香歩、ちょっと素直過ぎたんじゃないかな…」  「だって嬉しくって!家族の幸せって、嬉しいものじゃないの?」  「そうだね、そうだけど、…」  「10時前には帰るって連絡入れてあったんだけどなあ。まだ、お客さんが来る準備が終わってなかったのかな」  さすがに彼氏のところに泊まった、とは知らせていないけれど、紹介したい人と一緒に帰ります、とは伝えていた。  お母さんとお父さんと志歩のスマホそれぞれに、同じ文章を送ってあったのだけど、返事をくれたのは志歩だけだった。  『楽しみにしてるね!』の一言だったから、勉強で忙しいのかな、と思って、それ以降の連絡は控えていた。  「こっち~!こっちからどうぞ!お父さん、鍵閉めちゃったから」  すると、居間のある方からお母さんの声が響いて来る。  お父さんの態度とは正反対で、とっても機嫌が良さそうだ。  …なんだろう?  お父さんって、お母さんのことは大好きだけど、私のこと、そんなに好きってイメージなかったんだけどな。  すごく心配してくれているのは感じていたけれど、価値観や物事の捉え方が違うから、心はすれ違っているような気がしていた。
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