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レモンティー
志歩が立ち上がって、キッチンで何かしていると思ったら、紅茶をいれてくれたようだった。
手伝わなくちゃ、と思って私もそちらに移動すると、ティーカップの中でオレンジ色の液体と小さなスライスレモンが揺れていた。
「…ごめんね、志歩。戸田くんは、レモン苦手かもしれない」
「え!これ、思いっきりレモンティーなんだけど!ミルクもつければいっかな?」
「うん、ミルクも一緒に持って行こう」
お父さんはこの場にいないけれど、人数分のティーカップを、志歩と二人でそれぞれ分けて運んだ。
一気に話したいことは話し終えた、と言った風に、お母さんは網戸にした窓から庭を眺めて両腕を上げのびをする。
「どうぞ、オネーサマの彼氏どの」
「…ありがとうございます」
「…、戸田くん、ミルクあるよ」
「うん、…でも、美味しいよ。すごく、美味しい」
「そっかあ…」
ティーカップに口をつけた戸田くんを見つめている間、すごくドキドキハラハラしていた。
哀しいことを思い起こさせるレモン。
つらかった記憶の例えにしていたレモン。
きっと甘く飲めるようにって、私と半分こにしようって。
約束した、レモン。
その、紅茶。
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