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まさか
とにかく、のんびりしているようなところのあるルミが、あんなに慌てふためいているのだから、ただ事じゃないってことだけはわかる。
真っすぐに保健室へ向かうと、扉には「養護教諭不在」のプレートがかけられており、勝手に入って良いものか悩んでしまう。
立往生していたら、バタバタと誰かが駆けて来るのがわかって、なんとなく焦った私は、心の中で「ごめんなさい!お邪魔します」と唱えると、ささっと保健室の中へと身を隠した。
周囲からの視線も、何か関係があったのだろうか?
私は、何か良くないことをしてしまったのだろうか?
…良く、ないこと。
「…まさか、バレた?」
お金、もらっちゃったよ、私。
あの時の、カラオケでの、不快でしかなかった行為は、望んで身を任せたわけではなかったけれど。
それでも、それでも、犯罪なのだ。
私は、良くないことをした。
良くないことどころか、やってはいけないことを、してしまったんだ。
体が震えて、立ちすくんだまま、自分の両肩を手のひらで抱くと息が浅くなって行くのがわかる。
は、は、は、…と、何か発作でも起きてしまいそうな、追い詰められた気持ちになって、涙の膜が瞳にかかり、発狂してしまいそうになる。
違うの、私はあんなことしたくなかったの、ねえ、そんなの、誰がわかってくれるって言うの。
違うの、そんなつもりじゃなかったの、早く終わって欲しいって思ってたの、お金だっていらなかったの。
違うの、…、何が、違うって言うの?
だって、私は断れなかったし、逃げ切れなかったじゃないか。
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