どうなってしまうの

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どうなってしまうの

 学校指定の鞄以外に、荷物がある場合はもう一つ、バッグを持って来ても良いことになっている。  そうは言っても、ブランドモノのバッグなんかを用意して来る生徒なんかいなかった。  どうせ中身は図書室で借りた本だったり、お弁当だったり、部活で使うスケッチブックや楽譜だったりするからだ。  多少汚れても差し支えのない、大容量でも問題のない、そしてそれなりに自分の好みや個性を光らせることも出来る、ちょうど良いバッグ。  それが、みんなが選び、日々登下校を共にするバッグだった。  もちろん私も例にもれず、志歩と一緒に選んだ可愛い布地に、お母さんが丁寧に手を加えて作ってくれた、大き目のマチつきトートバッグを使っていた。  だけど、いつもはぺったんこなそのバッグが、今日はぷっくり膨らんでいる。  だって、手作りのお弁当が二つ入っているからだ。  ついでに、デザートにミカンも四つ。  「…今日のお昼、私は学校にいるのかな?…ううん、いることが、出来るのかな」  「大丈夫。それ、…お弁当、だよね。一緒に食べるんでしょ。楽しみにしてるよ」  「もう、今、二人で食べちゃおうか?最後の晩餐…に、なるかも…」  「落ち着いて、香歩。ルミさんが、クラスの子たちの、勝手な誤解は解いてくれてるはずだから。もうすぐ、教室に戻れるよ」  「怖いよ!!…みんな、私のこと、…見た目もこうだし、やっぱりねって、納得しちゃうに決まってる。軽蔑される。…でも、私は、私は、自分で選んで、この恰好をしていて、…好きなの。好きなのにな」  もう、涙は溢れては来なかったけれど、その変わりパニックを起こしかけているのか、べらべらと口が勝手にひとりでに動くのを止められない。  意味の通らない言葉を喋って、きっと戸田くんを困らせているとわかっているのに、すがりついてしまう、…味方。戸田くん。彼は、味方。  味方でいてくれると言った。  離れたくない。  私を信じてくれる人。  私を異様なものを見るような目で見ない人。  私を、普通だと言ってくれる人。  そして、再び背中でドアを軽くノックする音が響く。  
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