73人が本棚に入れています
本棚に追加
パニック
チャイムの音を聴き逃していたようだった。
壁掛け時計に目をやると、すでに授業ははじまっているであろう時間だったし、廊下からも人の気配は感じない。
「…いい?香歩、何か聞かれても、カラオケしてる最中で具合いが悪くなったから、急いで外に出た、って言うんだよ。それ以外は、言っちゃダメ。ブレたら、嘘だってバレちゃうからね」
「…ルミ。…わかった。私、でも、本当は、私、私、だって、私!!!」
「ダメだ、ルミさん、誰か先生呼んで来て!出来れば、養護教諭の先生!」
「きゃあああああああああああっ!!!!!」
混乱していたけれど、だけど、戸田くんがいてくれた。
ルミだって、味方でいようとしてくれた。
だけど、ホノカは今ひとりぼっちで。
そのホノカは、私のことを…、売ったんだ。
お金で、売ったんだ。
私は、そのお金をもらったの、確かにこの手にあったの。
もう、もう、もう、わかんないよ。
嫌だよ。どうして。壊れちゃうの。なんでなの。助けて。
わけわかんないの。
こうなっちゃうの。
逃げ出したい。
悲鳴をあげて、頭を両腕で庇って、私は冷たい床にふせって縮こまっている。
まるで芋虫みたいに。
ちっとも綺麗じゃない。
蝶々みたいになれたと思ってたのに。
楽しそうに、優美に、踊るように、ひらひらと自由に飛べたと思ったのは、全部夢だったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!