校長室

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校長室

 私は今、校長室のふかふかで大きな椅子に浅く腰かけて、ぐらぐらと煮えたぎる脳みそを抱えて、呆然としていた。  頭の中はこんなにも熱いのに、身体は冷えていて本能は危険信号を発している。  ホノカを送る役は、ホノカの希望で担任の先生にかわっあとのことで、今は、校長先生が私の側にいてくれた。  この高校に入学する前に、お母さんと私で、当時の主治医に書いてもらったADHDの診断書と意見書を持って、挨拶をしに来たことがあったのだけど、校長室に招かれたのはその時以来、二度目になる。  『何かあったら、校長室においで』  そう言われていたけれど、今日までそんな自体に(おちい)ることはなかった。  ただラッキーだっただけかもしれない。  小学生、中学生の頃は、よくパニックを起こしていたし、その度にお母さんやお父さんが迎えに来てくれて早退をしていた。  「これは、ワタシの独り言なんだけどもね」  「...え?」  職員室や保健室にあるデスクとは違う、膝の高さくらいまでのちょっと高級そうな広いガラステーブルには、ペットボトルのミネラルウォーターが置いてある。  そのテーブルを挟んだ向かい側に座っている校長先生が、穏やかな声音で話し始めたので、私は無意識に顔を上げた。  校長先生は、優しい顔をして私を見ている。  目尻には何本も深い(しわ)が刻まれていて、彼が表情豊かな人なのだと教えてくれた。
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