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記憶
目が合うと、校長先生はニコリと微笑んだ。
私は慌てて再びうつむく。
なんだか、とっても恥ずかしくて、それは先ほど大きな声で叫んでしまったことに対してで、やっと当たり前の感覚が自分に戻って来たのだと気がついた。
校長室は保健室の隣にある。
戸田くんが私を抱きしめて背中をさすってくれていたっけ。
そんなところも、校長先生には見られてしまった。
誰かを呼びに行こうとドアを開けたルミが、尻もちをついて、私の背中にぶつかる。
「...校長!、...せんせ、どうして?」
「やあ、大丈夫かい。ごめんよ、品川さん。戸田くん、岩井さんを校長室まで連れて来てくれるかい?」
「はい、わかりました。香歩、立てる?」
「は、は、はあ、...あ、うん、...」
小柄な戸田くんだけど、私の腕を自分の肩にまわすと、腰を抱え上げて立たせて、力の入らない身体を支えて歩き出した。
そして、この校長室の椅子に私を落ち着かせ、校長先生の「授業に戻っていてね」の声に、何か言いかける。
周囲が見えなくなっていた私は校長先生が戸田くんに何を言ったのか覚えていないけれど、「後で、また来ます」と強い調子で放たれた声に、ホッとしたんだ。
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