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強くなりたい
校長先生は、何もかも、わかっているんだと。
だけど、ホノカは言わなかった。
だから、裏付けになるようなしっかりした証拠はないんだ。
ううん、わざと、見過ごしてくれただけなのかもしれない。
「行こう、香歩」
「うん」
「さようなら。また、学校でね、二人とも」
礼儀正しく会釈する戸田くんだけれど、私のことを胸に抱えているので、ちょっと背中を丸めただけになってしまった。
退室して廊下に出ると、戸田くんが自分の鞄を取りに行く間、昇降口で待っているようにと私に言う。
ついて行く、離れたくない、怖い、と、勝手に口が動いて、また身体から力が抜けて行くのを感じる。
「じゃあ、鞄はいいよ。僕のはじめてを、また香歩にあげるね。鞄は、僕のはじめての忘れ物だ。これからも、たくさんあげる。香歩が絶望するたびに、きっと僕が必ず抱きしめに行くから、だから行こうよ。未来に行こう。つらい今は、そこでは過去の思い出になってるから。ね?」
今日までの当たり前の毎日が壊れてしまう。
そう思い込んで塞ぎ込んでいたら、戸田くんが一生懸命、明るい声で、希望の光を私の胸まで届けようとしてくれる。
力よ、わいて。
もっと、もっと、私を強くして。
元気に笑っていたいの。
私は、ぎこちなく、だけどしっかりと、戸田くんの目を見つめた。
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