ドキドキとモヤモヤ

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ドキドキとモヤモヤ

 今年のバレンタインは月曜日。なんてタイミングがいいんだろう。と思いたいところだけど私は好きな相手もチョコをあげる相手もいない。しかし、今日は桜の手作りのバレンタインチョコを作る手伝いをさせられている。  桜は大雑把な性格をしているのでレシピをみても適当な作り方をする。普通の料理であれば適当でもなんとかなるが、お菓子作りの適当は確実な失敗につながる。お菓子作りは言ってしまえば科学だと思っている。それくらい繊細で数グラム変わるだけで別のものになってしまうから。  ダイニングテーブルの上には山盛りになった板チョコが置かれている。どうしてこんなに大量かというと、桜がチョコ作りの失敗を繰り返しているから。これは毎年見る光景。 「よしっ! 今度こそ!」と顔にフェイスアートのようなチョコをつけた桜は、オーブンからフォンダンショコラを取り出す。  見た目はフォンダンショコラだけど……中身は?    一つお皿にのせ、半分に割ってみる。  トロ~リとチョコが流れてこない。  とりあえず食べてみる。  はい、生チョコケーキの出来上がり。  フォンダンショコラのように溶けたチョコは出てこないが、中はしっとりと生チョコの状態のカップケーキが出来上がる。 「芹~また失敗」と桜は私の腕を抱きながら凭れ掛かってくる。 「だから、グラムをまもりなっていったのに」と凭れ掛かってきた桜の頭にコツンと頭をぶつけてみる。 「ねぇ、芹ちゃんがつくったこっちのフォンダンショコラを味見してみてもいいっすか?」 「俺も興味がある」  桜のお兄ちゃんとヒーロー先輩は味見を待っていました! と言わんばかりに手にフォークを持ちスタンバっている。 「どうぞ、召し上がれ」と言い終わる前に私がつくったフォンダンショコラを食べはじめる二人。 「これが本物のフォンダンショコラっすね」 「おお! トロトロのチョコだ」  と一つのフォンダンショコラを取り合うように食べる二人。  私はちゃんとグラムを正確に図り作っている。だから失敗することはあり得ない。 「これを食べて、私に惚れるがいい〜」と言いながら、私が作ったフォンダンショコラを桜の口に運ぶ。 「うう。本物だ。これを先輩にあげるううう」 「こ~らっ! ダメでしょ! ちゃんと自分で手作りしたものをあげなさい」 「成功するまで頑張るっす、桜!」 「味見なら任せろ」 「お兄たちは芹が作ったのを食べたいだけでしょ!」と頬を膨らませる桜。 「あ、バレたっす……」 「ふん」  まあ、わかってはいたけれど二人の誤魔化し方はバレバレすぎてちょっと面白い。 「芹!」 「はい!」 「私のお嫁さんになって!」 「はい! はい?」  ん? なんて? 「ありがとう! 芹、大好き! 芹の美味しいお菓子を、美味しいご飯を毎日食べる!」と私にギュッと抱きつく桜。 「え? あ、うん。え?」と言いながら桜をギュッと抱きしめる。  ずっとずっとこの時間が続きますように。  このまま時間が止まってしまえばいいのに……。  ねぇ、桜。  私の気持ち、知ってる?  私の好きな人……知ってる?  朝起きて「おはよう」ではじまって。  寝るときは一緒のベッドに並んで「おやすみ」を言う。  大好きな人のためにご飯を作って食べてもらう。  そんな平凡な夢なのに叶わないってわかっているから……。  私のこの気持はきっと届かない。  それでも私は桜を想い続けるよ。
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