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寒さとぬくもり
見上げれば真っ白な空、足元には真っ白な雪、口からは真っ白い息。
空からは冷たく触れるとすぐ消えてしまう、真っ白な天使たちが舞い降りる。
今日もキミと一緒に歩く通学路。
毎日繰り返される、当たり前のような日々。
キミは「ふー」と大きく吸った息を吐く。真っ白な息が広がり一瞬で消えていく。
そしてこちらを向き「ねぇ今日はいつもより寒いね?」と言うので「そうだね、一年でこの時期が一番寒い気がするね」と返す。
「うふふ。寒いときはやっぱここでしょ!」とキミは脇に小さな隙間を作り指をさす。これは私が毎日のようにやっていた行動を真似たもの。正確には覚えさせたとも言う。私はキミの脇の下に手を入れギュッと腕を抱きしめる。
「どう? あったかい?」
「うん。すっごくあったかい。桜の脇の下、サイコーです」
「うふふ。いつも芹の脇にお世話になっているんで、たまにはね」
桜の脇はというか腕にくっついていると幸せな気分になる。
あったかくて、フローラルのシャンプーの香りが安らぐのです。
桜の肩に寄りかかって仲良しカップル風に歩いちゃおうと考えていると視線を感じる。振り返ると桜のお兄さんとヒーロー先輩が歩いているのが見える。ヒーロー先輩は私たちに気が付いているようでじーっとこちらを見ていた。
「あ、桜! あれ、お兄さんじゃない?」
「あ、ホントだ! お兄!」と桜は大きな声で兄を呼ぶ。
桜には二つ年上の高校二年生のお兄さんがいる。
お兄さんは爽やかで笑顔が太陽のように眩しくて、とても優しい人。
「あれ? 桜! と芹ちゃん!」
「よっ! お兄! とヒーロー先輩!」
ヒーロー先輩は桜のお兄さんと同級生。同じ部活で、親友らしくいつも一緒にいる。私と桜みたいに。ヒーロー先輩は見た目はイケメン。だけど無口無表情で何を考えているかわからない人。このヒーローってあだ名はヒーロー作品が好きというところから付けられたらしい。
「そうだ! ケーキ買ってきたっす! よければ芹ちゃんも家に寄っていくといいっす」
桜のお兄さんの手には今日は誰かの誕生日ですか? というくらいの大きなケーキ箱がみえる。
「いいんですか? わーい! ケーキ! お邪魔しまーす」と私はケーキが嬉しくてピョンピョンと飛び跳ねてしまう。
やっぱり桜のお兄さんは優しい!
「いよっ! 兄貴! ナイスタイミング!」
「どうもっす! 吹雪き出したみたいだし早く帰るっす!」
いつの間にか風が強くなり、目が開けられないくらいに視界が真っ白になっていく。
「お兄! なんも見えないよ!」と桜は兄の腕にしがみつく。
「芹ちゃん、大丈夫っすか?」と桜のお兄さんは私の方を向き、そっと手首を掴む。
「す、すごい、風ですね」
「危ないから手を繋いで歩くっす」と私の手をぎゅっと握ってくれる。
すると今度はヒーロー先輩が「お前、足元が危なっかしいぞ」と言って空いている片手を取り、ぎゅっと握ってくれる。
二人の手、あったかい。
二人に守られている感じ……ちょっとだけお姫様のような気分になった。
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